ほんと、私も週刊誌で読んだよ。喧嘩のもつれとか、色々書いてあったけど。何であんなになっちゃったのかね。でも男の怪我もたいしたことなかったんでしょ？でも人に怪我させるのはやっぱりまずいよね。」
　私はそう言って笑った。これ以上何を言っていいのかも解らなかった。正当防衛が認められたとか、いくら人に怪我を負わせたからって、酌量される余地があることや、逆に相手の過失さえ、報じられていなかったことを私は知っていたから。
　一般の人間が、真実を知る由は一つもない。
「まずいも何も、怖いでしょ。きっと頭が悪いやつなんだろうな、というより芸能人なんかやってるやつに、能力高いやつなんてそうはいないのかもな。まぁ、いい気になってたってことなんじゃない？顔がいいからってだけでさ。」
　シンジは笑ってそう言った。彼がバカにしていたのは他でもない私自信だった、だけど今、私は私ではない、、、。その瞬間、私はこの人に二度と会わないことを心に決めた。
　悔しいから。ただそれだけで片付けられるような気持ちではなかった。これからこんな思いを私は何度積み重ねなければいけないのだろう。
　会話は始まったばかりだったのにもう何を話しているのかも解らなくなっていた。つまらないというよりも、寧ろ何も感じなかった。
感情なんてなくなればいい、心なんかいらない。昔読んだマンガのストーリーみたいに私も機械の心と体が欲しかった。何にも動じず、傷つくことは決してない、鋼のように強い自分を。そんなもの手に入れて、私は何がしたいのだろう･･･。したいのではない･･･。
私はただ･･･。もう、傷つきたくなかっただけ･･･。
　時間はゆっくりと過ぎていった。楽しそうに笑うシンジの顔が、なんとなく私の記憶に残るだけだった。全くの他人。この人はいったい誰なのだろう、いったい私に何を求めているのだろう･･･。
「もうこんな時間だね。この後どうしようか？」
　私を我に返す言葉だった。腕の時計を見ると十時を廻っていた。
「そうだね、今日はもう帰るよ。電車の時間もあるし、今日は楽しかったよ。」