「もういいんじゃない、そろそろ忘れても、、。」
　今日私は、中学の同級生の香織にあった。彼女とはもう十年の付き合い、彼女は私のほとんどのことは知っている。反対に私も彼女の目で見えることに関しては、ほとんどのことを知っていた。
「美鈴は真面目すぎるんだよ。」
　真面目？私はその言葉が大嫌いだった。
「誰だってさ、間違いの一つや二つ抱えて生きてると思うよ。もう忘れなよ、前向きにさぁ、なんか、こう、出会いを求めたり、誰かと遊んでみたり。」
だいたいの知り合いは、この時期になるとみんなこの類の励ましを、私に押し付ける。
「別に私寂しいとか思わないし。」
　同じことを繰り返したくないからとかじゃなくて、ただ強がっているだけでもなくて、純粋に人のことが信じられなかった。香織は私にとって、本当に大切な唯一の親友だったけど。私の心の奥、つまり形の無い私をさらけ出せるほどの間柄ではなかった。
　洗い流せない過去はいつも私のすぐ後ろにいた。それは同時に私が一生背負う事実でもある、いつも私はそう感じていた。
「美鈴、新しい彼氏でも作ったら？」
　香織は、何の躊躇もせず他人事のようにそういった。
〝他人事〟確かに今の私たちだって、他人と友達の境目を、明確に説明することはできなかった。私は短くため息を付いた。香織のほうに向き直ると、彼女は頬杖を付いたままストローの先を噛んでいた。彼女のこの癖も中学の時と変わらないまま。私はそのことに気付き、なんだかおかしくて笑ってしまった。
「何人の顔見て笑ってんのよ。」
「ごめんちょっと思い出し笑い。」
　私はグラスに入ったコーラを眺めた。
「美鈴は美人なんだからぁ、その気になれば彼氏の一人や二人すぐに出来るって。それでもなければもう一度あの仕事に戻ってみるってのも、ありなのかもよ。」
　無責任な言葉に感じ、私はきっぱりと答えた。