〝嘘〟すでに全部が嘘みたいなものだったけど。
「ごめん、でも本当にうれしくてさぁ、、。」
　シンジはもう一度同じ言葉を繰り返した。
　うれしい？何が嬉しいのかなんて、私には想像も出来ないことだった。かなりの時間私は喜びという感情を忘れていたから。
「何か食べたい物とかある？それか行きたいお店とか？」
　私は首を振った。
「私都内はほとんど来ないから、お店とかあまり知らないんだ。おまかせしていい？シンジくんに。」
　私はそう言って彼に微笑みかけた。
　私たちは、町を歩いた。雑踏の中を。沢山の音が私たちを包んでいった。一人だけの時間が多すぎた私は、その音たちに自分がかき消されてしまいそうだった。
「ここにする？」
　ふいにシンジが指を指した。そこはお洒落な感じのダイニングラウンジだった。
「うん。いいよ。」
　私はそう答えた。正直入る店なんて何処でもいいって思っていたから。
中に入ると、丁度いい感じの照明がカウンターを照らしていた。
「二名様でよろしいですか？」
　店の店員もハンサムだった。私は帽子を深くかぶり直した。
「個室のテーブル席とカウンターのお席がありますが、どちらになさいますか？」
　店員が私たちにそう質問するとシンジはテーブル席を希望した。
私は奥の椅子に腰を下ろした。雰囲気のいいお店はただそれだけで、気分を少し楽にさせた。シンジはドリンクのメニューを私に手渡した。店員は方膝を付くような姿勢で私のオーダーを待っていた。
「何でも好きなもの頼んででいいからね。」
　シンジは私にそう言った。
「うん。」