新宿なんて何時以来だろう・・・。私たちは約束を交わした・・・。
 あんなわけの解らないどうでもいいような男と明日私はディナーを共にする。
 どうでもいい・・・。あんな男と・・・。
 日付が変わり、約束の時間が迫った。昨日の今日。何かふと笑えてしまった。なぜかって?メイクをしている自分に、服を選んでいる自分に、あんな男のために。その言葉はもしかしたら、口に籍く言葉だったのかも知れない。ただ私のプライドを養護するためのだけの・・・。間違ったプライド。それは間違いなく私自身の価値を下げていた。                          
約束の日、私は時間通りに約束の場所に付いた。
 相手の顔はもうわかっている。
 私は深く帽子をかぶり、メガネをかけた。沢山の人が流れてゆく。
行き交う人々、彼らは何処に向い何処に向かう途中なのだろう・・・。家路に急いでいるの?これから誰かと飲み会?本当はどうだっていい。そんなこと、だけど私は不思議だった。これだけの人間の一人ひとりに生活やドラマがあることが・・・。
彼らのうち何人が私のことを覚えているのだろう・・・。
 余計なことだとわかっていても考えずにはいられなかった。
 腕の時計を見ると後5分ほどで7時だった。
 私は周りを見渡した。不自然じゃない程度に。
 いた・・・。
 シンジは、中央の植え込みの前に立っていた。
 出来ることなら、向こうから声を掛けてきて欲しい。だけど私はほとんど顔も隠している。解るわけないか・・・。私は、彼の方へ歩み寄った。彼に何気なく気付かれるために。
「香織ちゃん?」
 帽子のひさしの陰からチラリと彼の方を見た私にシンジはやっと気がつき私の名前を呼んだ。もちろん〝今だけ〟の私の名前を・・・。私はこくりと彼に頷いて見せた。
「うれしいよ、本当に来てもらえて。」
 本当にって、自分で呼んだくせに。
「嘘なんてついたりしないよ、、。」
 私にとっては社交辞令にすぎない言葉だった。