「お前さぁ、」



最初に口を開いたのは彼。

普通の声も低く響いてキレイだなぁ‥



「俺のコト‥覚えてる?」


えーー‥?



「覚えてねーの?」



強く、低く、

なんだかすごく必死に話す彼は、とても真剣な眼差しをしていた。



「今日‥屋上で‥

あっ!!勝手に聞いててゴメンナサイ‥」



聞かれたくなかったのかな?あの歌‥お母さんの歌なんだよ?



「違ぇよ」

「え?」

「10年前、雪の中、公園で‥」




ーーーー‥あ。






10年前‥お母さんが、本物の天使になった年ーー‥


雪?公園?

あぁ‥



『悲しくなったり、寂しくなったりしたら唄って?お母さん飛んで行くからっ』





悲しくなったから唄った


寂しくなったから唄った



だけど‥お母さんは飛んでこなかった。





「……なんで‥知ってるの?」





その瞬間ーー‥


ふわっと腰に手がまわったかと思うと


顎を引かれ、唇に温かいものが触れた。



突然のコトに私の頭がついていける訳はなくって‥



顎に触れていた手は、いつの間にか後頭部へとまわされ、動けなくなった。



ついばむような軽いキスから、だんだん強く深くなってく‥


奪うようなキス。



何を怖がってるの?

何を恐れてるの?



「‥んっはぁ」



息が続かなくて、必死に酸素を求めた。

一瞬開いた口にヌルッと何か生暖かいものが入ってくるのを感じて、背筋が震える。


それは口内を、歯列を、丁寧になぞり、私の力を失わせた。




溶けてしまいそうな

強引だけど、どこか悲しい優しいキス。


頭が真っ白に痺れたの。



「んっ‥ふぅーーはぁっ」



更に苦しくなった私は、必死に彼の胸を叩く。


それに気づいたのか
彼はやっと離れてくれた。