旧伊興北第二小学校は、環状7号線から埼玉方向へ入り込んだ場所にあった。

 周辺は、古い住宅と近年建てられたマンションとが密集していて、一本幹線道路から中に入ると、車一台がやっと通れる程の細い道ばかりが入り組んでいる。

 小学校自体、細い道に囲まれるように建っていて、僅かに正門側だけが、児童公園と面している為、多少視界が開けている。

 問題は、周辺住民を気付かれずに避難させられるかに掛かっていた。

 一戸建てだけではなく、アパートやマンションもある。それに、この地区の古いアパートや一軒家には、高齢者が多く住んでいるし、都心より安い家賃相場の為、外国人もかなり住んでいる。

 それら住民を混乱無く避難させる為、周辺警察署に応援を頼んだ。だが、懸念していたように、住民達と捜査員達との間で、小さなトラブルが続出した。

 こういった異変は、周囲に伝染する。一番知られたくない相手にまで、それは伝わってしまう結果となった。

 だが、学校内部に居た者達は、こういった事態を想定していた。

 誰一人慌てる者は居ない。それぞれが、予め定められていたかのような規則正しさで、自分の役目を遂行している。

「データの転送は済んだか?」

「はい。後5分で」

「先に校舎の方へ行っている。無線の周波数を33に変えて置くように」

 垣崎二佐は、自らSIG P228自動拳銃と、狙撃用ライフル、レミントンM700を掴み体育館と校舎を繋ぐ出入り口へ向かった。

 既に殆どの者が持ち場へ着いている。幾ら厳しい訓練を受けた者達とはいえ、ここに立て篭もる者は二十人足らず。恐らく警察はSATを投入して来る筈だ。狙撃部隊も来るだろう。

(垣崎二佐、無線が入っています)

「チャンネル22へ繋げ」

 耳に装着した小型無線用インカムの周波数を合わせると、園田二尉の沈んだ声が届いた。