「おーいっ」


それは、担任の先生が今日の終わりを告げた瞬間だった。


「行こー」


低く響いた声にザワザワ騒ぐクラス内と、クツクツと笑ってる2人。


「早いね?」

「待ってたもん」


急いで支度をして駆け寄ると、ヌッと立ちはだかった先生。


「おい、2年はあと1限残ってるだろう」

「や、具合悪いんで早退するっす」


爽やかな笑顔でそう言うと、先生はため息を盛大について‥


「青春だなあ‥今日だけだぞ?」


と、私たちの肩をポンと叩いて去って行った。


「青春だってさ」


楽しそうな顔で私を見下ろしたこの人は、私の手をとって歩き始める。


「どこ行こっか」


繋いだ手をぶらぶらと大きく振るから、身体の小さい私はよたよただ。


「あ、そういえば」

「なーに?」

「2年生、なんですか?」

「んー?そうだよーってかいきなり敬語‥」

カクンと首を落とした先輩?うん。先輩を下から覗き込むと、


「‥っ、下から見るな」


顔を掴んで押し返された。


「女の子の顔をっ!」


酷いと思いません?いきなり女の子の顔を掴むだなんてさ。


「悪い悪い」


むくれていた私の頬を、その温かい手が両側から挟むから。


「ぷしゅ」


空気が抜けた。


「あんたほんっと面白ぇな」

「何がですか?」

「全部。つか敬語ヤメて?」


そしてまた、私の手をとって大きく振る。


「きゃーっ!腕が取れちゃいますってばっ」

「敬語ヤメたら普通に繋いであげる」

「わかりましたからっ」

「はいまだダメー」


年上だと判ると、なんか自然に出ちゃうんだよね。


「わかったーっ!わかったからー‥おえ」

「わわっ大丈夫?ゴメン調子乗った」


車酔い?腕振り酔い?


「大丈夫で‥あ、大丈夫だ‥よ?」


敬語を抜いた言葉って、どんなだっけ?


「あはは。早く慣れてね?」


そう言って向けた笑顔は、ちょっとだけ悲しそうに見えた。

それは、太陽の光が橙色に変わってきている所為かもしれないけど。


「たこ焼き食べたいで‥なっ」

「え?」

「たこ焼き食べに行こっ」


今度は私が手を引いて。