ミーンミンミン……。
「はぁ……」
目の前の現実に戻る。
このスーツが入っているバックのチャックを、閉めたくない。
閉めれば、行かなくてはならない。
とんでもない暑さの中、一週間も……。
「そっち終わったー?」
同期で入った島野が声を掛けてきた。
残った新人3人の中で、唯一の女の子だ。
「ああ。あと、チャックをすれば……」
ジィーッ。
ああ、閉めてしまった……。
「ねぇ、剣は入れた?」
「あっ!! やっべぇ!!」
僕は慌てて、怪人が持つ剣を取りに行った。
「あぶないなぁ~。入ってなかったら、先輩に殺されるよ?」
殺されるーーー。
不謹慎極まりない言葉も、この現場ではあたり前の様に飛び交っていた。
それくらい、厳しい仕事だった。