『はい。 ココアでいい?』
『うん。 ありがとう』

こんなに慣れ親しむつもりなかった。
ただのウザイ隣人で、馬鹿ホスト。

そうやって、輝を毛嫌いしてきたのに……

『ま、気の済むまでいたら? 俺も今日は、休業だし』

智志との喧嘩のいきさつを話した私を、馬鹿にする事も怒る事もなく、輝は軽く笑って部屋に上げてくれた。

しかも甘いココアまで……

って、あれ?
この人、何でここに……?

『旅は? 終わったの?』

昨日までいなかったのに。

『あー、ただの遠征だからね。 ブログに書いてあったろ?』
『あ、そういえば』

名古屋……だっけ?
ってか、そんな所まで仕事しに行くんだぁ。

都内だけでやってるのかと思った。

『ブログとか店のサイト見て知り合った人とかに会ったり、飲んだりね。 楽しかったよ』

あまりにも嬉しそうに話すから、私まで楽しくなってしまった。

この街で生まれ、この街で育った。
そんな私の知らない場所を、この人は沢山見てるんだ。

『ってか最近、輝の部屋が静かだね』
『うん? そう?』
『女の人が来てない気がする』

ふと気付いた輝の変化を、ようやく聞く事が出来た。
なんだか、こうしてまともに話す機会もなかったから……

『部屋に客を入れない事にしたんだ』
『え? 何で?』

今まであんなに人が来てたのに……

『自分の狙ってる女が壁の向こうにいんだからさ。 誰か入れて、自分の評価下げたくねーんだよ』

……な、
何言っちゃってんの〜!?

『ハズッ!! 輝、超恥ずかしいんだけど!』
『わぁってるよ! でも、嘘じゃねーから』

その直球過ぎる性格。
マジで困る。