昨日、輝が言った「ばいばい」

あの野郎。
本当に消えやがった。

しかも、鍵は開けっぱなし。
電気つけっぱなし。
貴重品も置きっぱなし。

どんだけ不精なんだよ……
さすがの私でも、この部屋がどうなってしまうのか気になって仕方ないし。


『はい、どうぞ』

一応、大家さんに部屋の事を話すと、何故か鍵をくれた。

それはもしかして、私に戸締まりしとけって事?

『しっかりとお願いね』

……はーい。
こんな甘いセキュリティでいいのかしら。




『…ったく、もう』

渋々、輝の部屋の電気を消して、戸締まりをする。

あとは、大家さんに鍵を返して……

『綾香?』

ん?
この声は……

『…智志』

背後から現れた智志の姿に、驚きと動揺を隠せない。

『何やってんの? そこ、部屋違うけど』

上手い言い訳うかばない。

絶対に怪しいよね。
私が輝の部屋から出てくるなんて……

『あ、えと……』
『馬鹿だな、お前。 自分の部屋間違ってんじゃねーよ』

へ?
気付いてないの?

『ほら、鍵貸せよ』
『あッ』

私の手から鍵を奪い、智志は鍵穴にグリグリと押し込んでいく。

『っんだ、これ! 入んねーって』

いや、だってね?
それ、輝の部屋の鍵だもん。

入ったらマジでセキュリティが心配だよ。

『その鍵、落としてから形変わっちゃったの。 こっち使って』

さりげなく自分の鍵と、輝の鍵を交換し、ポケット深くにしまい込む。

『馬ー鹿。 早くまた、合い鍵作っとけよ?』
『うん、そうする……』

……よかった。
智志、気付いてないみたいだ。