ベランダに消えていった輝が戻ってきたのは、それから5分後。
なんと、奴は玄関から靴を履いて出てきたのだ。
出だしからムードもへったくれもない。
輝らしいっていえば、輝らしいんだけども……
『さぁ、どーぞ』
車の助手席の扉を開け、にこにこと手招きをする輝。
大人の姿をした子供だ。
こんな嬉しそうにするなんてさ。
まぁ、私も嬉しいけど。
『出発進行~』
輝が拳を高く上げると同時、車が前に進む。
……うんうん。
ゴーカートを楽しむ子供みたいだ。
『ってか、この車って輝の車だよね』
『何で? 盗難車に見える?』
そ、そういうつもりじゃないんだけど……
『この辺りじゃ、車持ってる人が珍しいから』
この辺は交通機関がしっかりしてるから、免許を持っていても車を持たない人が多い。
智志もペーパードライバーだし、私なんか免許も取ってない。
『出張やってると、車あった方が便利なんだ』
確かにそうなんだけど。
この歳で、この高そうな車。
ホストってのがマイナスポイントだけど、一応は高収入。
我ながら、凄い人を恋人にしちゃったかも。
『綾香は免許取らないの?』
と、ニマニマしてる私を一気に現実に引き戻す輝の声。
『あ、うん。 しばらくは取る予定ないけど……』
いやしかった自分を深く反省しながら、適当に返した。
『ってか取れる自信ないんだよね。 テストとかあるんでしょう?』
運転にも自信なんかないけど、記憶力にはもっと自信ない。
きっと、何度もすべった後で諦めちゃいそうだ。
『んじゃ、ずっと助手席乗ってりゃいいよ』
……え?
『綾香が婆(バア)さんになって病院通いになっても、ちゃんと乗せてくよ』
『何それ…… 妙にリアルすぎ』
病院通いとか、普通にありそうで嫌だ。
ってか、そんな遠い将来にも私が存在してるんだ?
何か……ちょっと嬉しいかも……