『一体何なんだよ、急に帰るって……』
タクシーを飛ばし、名古屋駅に入る。
新幹線の切符は買ったし、忘れ物はない。
『早く帰りたいの』
早く東京に帰りたい。
帰って、ゆっくり休みたいんだ。
『そんなに輝に会いたいのかい?』
『……は?』
『輝を見て、安心したい。 違う?』
何言ってんの。
そんなわけないじゃん!って言ってやりたい。
でも、声が出なかった。
確かにそうかも知れないって思ったから……
『帰ったら輝に今日知った事を言う?』
意地悪に聞く咲耶に、思わず笑みが漏れる。
『言わない。 知りたかったら自分で調べるべきだもん』
こんな私でも答えが出せた。
きっと、輝ならもっと簡単に知れるもの。
『じゃあ君は、輝の女になるわけだ』
……そうなるかも知れないし、
ならないかも知れない。
どちらにしろ、ゲームは終わらせる。
もう二度とさせない。
自分で動くように説得するんだ。
『せっかく可愛いと思えるようになったのに、残念だな』
『はい?』
『君の事だよ』
またまた悪戯な笑みの咲耶。
可愛いとか言われても嬉しくないし。
『心にもない事言わないでよ。 あんたは輝が好きなんでしょ?』
それに、前に「落ちた」とか言われたしさ。
『別に、僕は男が好きなわけじゃないしね』
『うん? そうなの?』
『そうだよ? 輝に出会うまでは、まともな恋愛をしてきた』
じゃあ、同性愛者ってわけじゃないんだ。
ま、ホストやってるくらいだしね……
『だから輝に対しての想いに葛藤したし、否定もした。 だけど、どうにもならない事もあるって思い知るだけだった』
切ない横顔に、ツキンと胸が痛んだ。
私が女である事を羨ましいと言った事があった。
女ってだけで、輝の許容範囲に入れるから……
『らしくない顔しないでよ。 あんたみたいに、輝も恋愛観変わるかもだし……』
こんな慰め言ったって無駄だと思ってるけど、言わずにはいられなかった。
一方通行の想いが、私と智志に似ていたから……かも知れない……