園長は、輝の事で知っている事を全て話してくれた。

そして、一つだけお願いをしたんだ。

『今日知った事は、絶対に人に話さないでくれ』

と……

『もちろん輝くんにも話さない方がいい。 彼を思うなら』

意味が解らなかった。

どうして輝が知りたがっているのに、教えちゃいけないの?

あの人がお父さんだって知るだけで、輝の心は晴れるんじゃないの?

どうして……


『お忙しい所、ありがとうございました』

放心状態の私の肩を抱き、一緒に一礼する咲耶。

何?
もう帰っちゃうの?

このすっきりとしない感じは、どうしたらいいのよ……





『僕の予想通りだった』

駅に向かう途中、咲耶は言った。

『やっぱり輝は……』

「中林社長の息子」
そう言いたいんだろうけど、誰が聞いてるか解らないから、最後までは言わない。

『あの、さ。 輝だけにコソッと教えるのも駄目なのかな』

誰もいない所で小さな声で伝えれば、大丈夫なんじゃないかなぁ?

『どうして僕が輝のゲームに答えなかったと思う?』
『え?』
『勝てば、輝が手に入るはずだった。 それなのに答えを伝えなかった理由は、何だと思う?』

見下したような不敵な笑み。

「どうして」なんて、今までに考えた事もないから、答える事が出来なかった。

『輝が大切だったからだよ』

大切……?

『今さら「隠し子」なんて噂でもたてば、マスコミは放っておかない。 真実を知ったために、輝の人生は180度変わるんだ』

そう言われ、やっと気付いた。少し先の未来に……

マスコミから、身を隠すような生活を強いられ、
それでも、追及は止む事なく、逃げれば逃げるほど執拗(シツヨウ)になる。

仕事どころか、外出だってままならない。

あの明るい笑顔は、もう見られない。


そんな未来が……頭の中を占拠した。

『輝を好きな奴ほど、ゲームに勝てない。 本当、よく出来たゲームだよ……』