無人駅を出てから20分。ようやく向こうに民家が見えてきて。
相変わらず不便だとおもうけど、この不便さ、この過疎っぷりが私は好きだ。
まるでタイムスリップしたかのような民家に、着物で生活する人々。
お年寄りの人なんか、言葉遣いが古すぎて何て言ってるか解らない人だって居る。
――下界と違うこの空間は、何とも言えず私を穏やかにしてくれるんだ。
「…ハァ…やーっと、着いた…」
ゼェハァと荒い息をしながら、目の前にある民家を薄笑いを浮かべて見上げている私は相当怪しいだろう。
だが村人にとっては毎度の事で、笑って挨拶していくだけだ。
「ちょっと、人の家の前で怪しい事しないでよねっ!」
元気で明るい声が背後から聞こえてきた。
と認識した瞬間に、体が押されて前に傾いて――
「ぐぇっ…ちょ、苦しい…」
――蛙が潰れたような声を上げてしまった。
重いリュックに押し潰された上に、声の主が乗ってるもんだから仕方がない。
「相変わらず色気の無い声を出すわね。そんな事じゃ、いつか蛙になるわよ?」
どうでもいいから早く退いてくれっ…!と強く願った。