□未結side□
―その日の午後練。
行きたくない…けど行くしかない…ってずっと思って来た。
いつもどおりのシュート練も、なかなかシュートが決まらなかった。
「未結どーしたの?
調子悪くない?」
嘉音先輩は、私がなかなかシュートが入らないのを見てたらしい。
「いえ…スランプですかね!(笑)」
とりあえず、笑ってごまかすしかなかった。
だって嘉音先輩との関係のせいで、今いじめられてるんだもん…。
…なんて、言えるわけないよ…。
「何笑って可愛こぶってんだよ、きっも~」
…!
声がしたほうを見ると、みんないつもどおりにシュート練に励んでいる。
…だけど今のは亜耶の声だった。
間違えるわけない――亜耶の高い声だった。
「15分間休憩―――っ!!」
その声を聞き、みんなシュート練をやめて水分補給に入ってる。
私は――水分補給どころじゃなかった。
こんなに―――バスケをすることがつらく感じたのは初めて…。
「未ー結っ!
どうしたの、今日元気ないみたいじゃん」
私に元気がないとき…話しかけてくれるのはいつも嘉音先輩だった。
…もし私がいじめられてることを嘉音先輩に相談したら……
そのことを知って、嘉音先輩があたしから離れてしまったら―――…?
絶対…嫌。
私が相談するべきなのは―――蒼。
嘉音先輩に相談しなくたって、蒼に相談できる。
「――耐えなきゃ…」
耐えなきゃ…耐えなきゃ。
―半年後。
街のイルミネーションがキラキラ光る―――冬。
私、川野未結は…いまだにいじめられていた。
それどころか…半年前よりひどくなってる。
夕菜や亜耶、奈苗たちは…ひとことも口をきいてくれなくなっていた。
教科書やノートに悪口を書かれたり、物を隠されたり。
それでも蒼は相変わらず一緒にいてくれてる…。
学校は、何があっても休まないって決めた。
休んだら、いじめに負けたことになる。
負けることはできない…絶対に。
蒼に、悪いから……。
そして今日も教室のドアを開ける。
―ガラッ
「あっっ未結!
おはようっ♪」
…!?
真っ先に挨拶してきたのは…亜耶。
…いつもは話しもしてくれないのに…。
何…企んでるんだろ。
遠くから、蒼の視線を感じた。
「…てゆーかさー?
未結、髪長くなーい??」
奈苗がいきなり…そう言った。
髪…それは、私が今まで大事にし続けてきたもの。
だから今じゃ、背中の終わりくらいまでのびた。
「切ったほうがよくない?
うちらが切ってあげるよ~♪♪」
そう言って夕菜が用意したものは…鋏(はさみ)。
シャキ…という、鋏を開く不吉な音が響く。
「…ぃや……やめてっ…」
私は声を出すことだけで必死だった。
クラスメートは、みんな見て見ぬふり。
「おいっ…!!
やめろよ!!!」
遠くから蒼が走ってくる音がした。
それもお構いなしに、夕菜は不吉に笑って…こう言った。
「―――――残念でした」
―ジャキッ!!
―パサッ…
髪が床に散らばった。
ずっとずっと
大事にしてきたもの
それを
たった今
―――失った。
「ぷっ……
きゃーっははははははははは!!!!!
見てこの髪型!!」
夕菜たちは、鋏を床に置き去りにして爆笑。
「未結っ……!!!」
蒼が駆け寄ってきた。
私は…何を考えることもできなかった。
ただただ涙が頬を伝うだけ…。
「おい未結っ!
しっかりしろよ!!」
…蒼は
いつでも私のそばにいてくれた
迷惑かけて
心が折れそうになったときだって
優しく励ましてくれた
…だけどごめん蒼
私もう
駄目そうだよ……。
―――未結の
さらさらのロングヘアは、ショートヘアになった。
未結のロングヘア、好きだった。
もちろんショートヘアも可愛いと思う。
自分の意志で切ったならまだしも…大島たちに切られてしまったなんて…。
未結は、髪がすごく大事だって言ってた。
たまにするヘアアレンジも…似合ってた。
…さすがにひどすぎる。
俺は大島たちに尋ねた。