沙耶香の心は土砂降りの雨の現実から、雲の上の天国へまで舞い上がってしまっていた。


 雨で視界が雲り、顔をしかめつつ慎重に運転する栗田が、愛しくて愛しくてたまらない。


「沙耶香、君の友達は本当に歩いてるの?」


「え? あぁ……そうだった」


 脳がのぼせてしまって、てっきり幸也たちの存在を忘れていた。


「もう山を越えてるならいいけど……」


「心配してるの?」


「この雨だぞ? そりゃあちょっとは心配するよ」


「てっきり嫌いになったのかと思ってた」