「ハアー。やっぱり来るんじゃなかった」

溜め息と共にそうぼやいたのは私ではなく、隣で胡座をかき、手を後ろについて空を仰いだ紳君だった。

「なあ。何で泳ぎに行かないんだ?」


この頃は、こんな風に紳君が私に話し掛けるのは普通になっていた。

私が篠原家のキッチンで勉強をしていると、不意に来た紳君もテーブルの椅子に座り、私の勉強を覗いたり、バイトでの出来事を話したり、つまり普通に友達のような会話をする間柄に進展していた。

進展というのは、少し大袈裟かもしれないけど。