「なんだ、田中君か…」

がっかりして、思わず声に出してしまった。

「なんだ、はナシでしょう? 恵子ちゃん」

私は田中君から体を離して、肩に置かれたままの田中君の手を、退けさせた。

「そんな呼び方しないで。一応、私は先輩なんだから」

「え、いいじゃん。俺の事は直樹って呼んでくれていいし」

「呼びません。私、急いでるんで」

そう言って、私はさっさと歩き出した。

田中君って、チャラそうで一番苦手なタイプだった。