NISHI2-407とは、この大学の知る人ぞ知る、伝説の空間移動装置の名称である。空間移動装置、この漢字の羅列も随分胡散臭いが、横文字ならteleportとでも言おうか。すなわち、離れた二点を極めて短時間で移動することができるシステムである。
 と、先輩は大学構内の建物の配置図を眺めながら説明する。
「大学がある土地の磁力が、少し変なんだけど」
 私は、前日に先輩が飲んでいたものと同じ軟水を飲み、それを聞く。先輩の手元には缶コーヒーがあった。
「ジリョク」
「敷地の下の土地は、強い磁石の力を含んでいる」
 私の呟きを拾い、呆れ顔で先輩は言葉を噛み砕く。
「富士山の青木ヶ原樹海が有名だろう。あそこは富士山が噴火して流れ出た溶岩に、磁石の力があるんだ」
「ああ。方位磁針が使えなくなるんですよね、聞いたことあります」
「ここもそう考えればいい。校舎を建設するときに行われた地質調査でそれが判明した」