「姫様」

 月の美しい晩でした。わたくしを呼ぶ声は庭からで、月の光にそのもののかたちは容易に見えました。
「コウか」
 わたくしは侍女を下がらせました。廊下へ出ると、コウもわたくしの方へ寄ります。コウは心なしかふっくらとしたように見えました。
「どうしました」
「姫様」
 顔を上げたコウはその瞳に涙を一杯に溜めていました。
「どうかお許し下さい。千吉さんも苦しんで苦しんで、目も当てられないくらいにやつれてしまいました。どうか、お許し下さい」
 声は抑えながらも必死にわたくしに頭を下げ、そしてわたくしの顔を見るコウ。わたくしは庭に降り、自分の打掛をコウに掛けてやりました。裾が汚れてしまいますが、そんなことは構いません。ただ、コウを静めてやらねばと思いました。

「姫様」
「コウ、わたくしに何を許せと言っているのです」
 コウの顔が引きつるのがわかりました。わたくしはコウに目を合わせます。
「せ、千吉さんが、姫様にひどいことを言って」
「それをコウが謝るのはおかしいでしょう」
「でも、千吉さんはそれを悔やんで」