ああ、わたくしはわたくしが情けない。こんなに意地の悪い人に現をぬかし、こんな人の傍を離れることに涙したなんて。

「そう」
 わたくしは体を引きました。自分で涙をぬぐい、立ち上がり、着物に付いた藁と土を払いました。
「そうね、あなたが言うことに理があります。それは謝ります」
 わたくしは、わたくしを見ないでいるその人に言い放ちます。
「所詮、あなたはしがない下男。わたくしにはつりあわないのです。ごきげんよう、疲れているところを邪魔しました。さあ休みなさい、明日も朝から汗して働くのでしょう」
 辺りは急に静まったように思えました。絶えず虫の音はしていますが、それさえも遠くに聞こえます。
「このいやな臭いが着物に移ってしまいます。では」
 わたくしは馬屋を出ました。





 稲はすっかり刈り取られました。新嘗の神事も済み、嫁ぐ支度は着々と進んで
いきます。生まれ育った城や土地とも、直に別れを告げねばなりません。何よりも、父上や母上、ほか沢山の者に。