コウが身ごもった、ということはつまり、わたくしと会いながらもコウと契った、ということ。コウを憎いとは思いません。そんなことをした千吉への怒りが、わたくしの中に生まれました。

「わたくしのことを、思ってはいなかったのね」
 上手く声になったかはわかりませんが、わたくしは千吉に問います。
「姫様こそ」
 千吉はようやくわたくしの言葉に答えました。

「本当に俺のことを思ってはいなかったでしょう。その、光る君の話や、色々な物語を読んで、勝手な夢を見ていた。身分の違う者でも、思い思われるならばそれに勝ることはない。そんなありえない夢を、俺で試そうとした。俺に近づき、甘い夢を見させ、ご自身の夢に酔いしれていた。そうではありませんか」
「ひどい」
 わたくしは起き上がり、千吉の顔を下から覗きこみました。いいえ、実際には涙で千吉の顔は見えません。
「そんな、わたくしが千吉をもてあそんだような」
「もてあそんでいたのですよ、お気づきにならないだけで」