「それに、こういうモノもある」
 先輩に会うのは決まって五限の後、辺りが暗くなってからだ。四年生の私に自分を「先輩」と呼ばせるのだから、それなりに重要な授業があって大変なのだろう。院生ではなく学生だと話していた。
 先輩が見せてくれたメモには「伝承者の条件」と題し、箇条書きでいくつも条件が書かれている。
「伝承」
私はそのメモ用紙に目を通す。なんてことのない条件だ。
「つまり、後輩を見つけて、伝えなきゃいけないんですか」
「四年できちんと卒業できるなら、やらなくて良い」
「でも、授業をたくさん取っている人が、NISHI2-407を知っているんですよね」
 履修届を提出する時に見えてしまったんだけど、君、たくさん授業を履修するんだね。そう言って先輩は私に話しかけてきたのだ。私はかなり人見知りをする性格で、先輩と話すのも抵抗があったのだが、そんなの気にしない、という様子で教室移動の面倒さ、煩わしさを滔々と、かつ面白おかしく語った。私は読んでいた文庫本を閉じ、先輩の話にのめり込んだ。