校舎の建設計画には、優秀な学生も特別に参加していた。研究の成果を身近な場面で試す良い機会だからな。その中の一人が、この異常な磁力を何かに使えないかと考えたんだよ。折しも、磁力によって形状を変化させる物質を大量生産する技術の研究が某国で進められていた。また、携帯電話の技術も研究が進んでいた。それらを組み合わせ、空間移動装置を作る。自転車で移動するには狭く、全て徒歩で移動するには広い構内。そこを自由に行き来できるのなら、時間をもっと有効に使える。連続して授業があるとき、離れた場所に教室があっても移動時間を気にせずに済む。
 校舎ごとに基地を設定し、その場所の壁や天井、床には例の物質を使う。それぞれを地下配線と特殊電波によって接続する。歴史ある校舎、建て替えられる校舎……一つ建物が増える度に配線を増やし、システムを更新する。数年前に西二号館が建て直され、校舎が出揃った。したがって、このシステムも遂に完成した。それまではただ「移動装置」とか「テレポート」とか呼ばれていたシステムに、最後の基地の名を与えた。西二の基地は、四階の隅だ。大教室の脇にある廊下の突き当たり。西二号館四階には教室は六つ。つまり406までしかない。「NISHI2-407」とは、常識を超えたものである、ということを含意した名称だった。
「携帯電話が普及するまでは、どうしていたんですか」
 私は疑問を口にする。
「最初の頃の携帯電話、知っているか」
「確か、肩に提げるポシェットのような」
「そう。それと磁石を使っていた、らしい。その頃の学生で、ケータイを持っているなんてよっぽどだろ」
 余程、何なのか。金持ち、目立ちたがり屋、新しい物好き。そんな言葉が浮かんだけれど、口にしなかった。
「だからその名残で、今もほんの一部しかNISHI2-407を知らないんですか」
「ご明答」