最後のバイトの日、店長はちょうどお休みでいなかった。

 私はいつもどおりせっせときびきび働いて、閉店時間になった時にみんなからお疲れ様、と花束をもらった。
 驚きと嬉しさと今までの思い出がこみ上げて、私は涙ぐみながらこちらこそありがとう、また来るね、みんな元気でね、と言い、見送られながら店を出た。


 外は小雨がぱらついていた。


 気にならない程まばらな雨は地面に落ちてはすぐに乾き、腕の中の花束を雫で飾った。
 その様子がとてもきれいだったし、この後用事もなかったので、私は急ぎもせずにぶらぶらと、今までのことなんか思い出しながら歩いていつものバス停へと向かった。

 柔らかな雨は静かな質量を持って私を包む。
 こんな雨を春雨と言うのかな、と、この雨とお料理に使う春雨との関連性を考えているとバスが来た。座席に座り、しばらくずっと窓の外を眺めた。

 雨は次第に強さを増し、傘を忘れた人たちは急ぎ足で屋根のある場所に駆け寄り雨宿りをしていた。

 バイトの最後の日にこんな雨になるなんて、この前店長に雨の呪いをかけたせいかな、なんて不意に店長のことを思い出した。
 今日でバイトは終わりだし、もう店長に会うことも無い。最後にお礼が言いたかったな。ううん、ひと目会うだけでも会いたかったな。

 視線が自然と腕時計に落ちた。

 今日は式の最終打ち合わせだと昨日言っていた。もうこの時間なら打ち合わせも終わって家に帰った頃だ。奥様と今日の打ち合わせのことについてのんびりと話したりしているのだろう。


でも。


 そのとき次の停留所のアナウンスが流れ、私は弾かれたようにバスを降りた。