『マリッジリング』

 喧嘩は嫌いだ。意見のすれ違いも。

 それでも私は時々あなたと喧嘩をする。

 あなたのいいところも嫌なところもひっくるめて好きで、愛して、どうしようもないところも認めて、気にしないようにして、見ないふりして諦めて。それでもやっぱり許せなくて。

 秘めた思いは膨らんで、何かのきっかけで時々あなたの前に露わになる。激しい感情となって現れるそれはいつも突然で事故のよう。
 あなたは驚いて、でも優しく私を諌める。居心地のいい胸に抱きしめ、耳触りのいい懺悔を囁き、労わるように私に施しを与える。
 それで許すともなしにお互いの関係は修復され、何事もなかったみたいに日常は穏やかなものに戻る。

 でも日常は穏やかになろうと、私の心にはいつも不安が付きまとう。

 この人は私の事を本当に愛しているのか、不安になる。