「……なにこれ」

 ずしっと重みのあるそれは、よく自転車に付いているようなワイヤーロックだった。安っぽい厚紙に安っぽい針金で留められ『防犯のお供に!』と安っぽい売り文句が書かれている。

「これは、運命の、赤いワイヤーでーす!」

 不得要領な私の表情を読みもせず、まだ息が上がっているカツオは高すぎるほどのテンションでそう答えた。確かにワイヤー部分が赤い、とカツオに言われて初めて気づく。

「花沢さん言ったよね。赤い糸はどんなに束ねても切れちゃうって。あのね、あの後俺めっちゃ考えたんだけど、んで、分かったんだけど、俺たちの運命は糸じゃないんだって。赤いワイヤーなんだよ!だって俺、やっぱり花沢さんのことすげぇ愛しちゃってんだもん!切りたくても切れないし、切りたくない強い絆なんだよ!で……」

 整理しないまま次々話すカツオを搭乗アナウンスが遮る。カツオの視線が宙をさまよう。店長が腕時計に視線を落とし、搭乗口に目をやるのが視界に入る。

「カツオ」

「行って、花沢さん。俺、絶対ビッグになって花沢さんのこと迎えに行くから!何処にいても絶対見つけ出すから!待ってても待ってなくても、俺花沢さんの傍に行くから!」

 そう言って私の肩をポンポン、と2回叩き、カツオはその手を離した。それは子供が大切にしているぬいぐるみを気の済むまで撫で、棚に戻すような所作だった。