見間違えかと思ったし、他人の空似かもしれないとも思った。しかし、その人は遠くからこちらを見つけ、周りの事も考えずに大声を出し、大きく手を振った。

「はーなざーわさぁーん!」

「……カツオ」

 周りの視線が私たちに集中する。恥ずかしさで倒れそうだが、ちょっと嬉しいとも思った。
 そんな私にお構いなしに、カツオは人の中を全力でこちらに向かって駆けてくる。ロビーで大声を上げ、大切な人に会いに来たらしい男のために周りも道を開ける。モーゼさながらの光景に、私はちょっとついていけない感じになっていた。というか、恥ずかしい。カツオと顔を合わせるのも気まずい。一刻も早くこの場から立ち去りたい。

「店長、行きましょう」

 回れ右をして歩き出す私を店長は器用にくるりと回して元の場所に戻した。呆気にとられる私にふわりと微笑み、
「駄目よ。逃げないの」
と、私の心を見透かしたような一言で私の動きを完全に止めた。

 走って来たカツオはそのままの勢いで私の両肩を痛いほどの力で掴み、息切れしながら叫ぶように言った。
「居た!間に合った!会えたー!」
「どうして……」
「花沢さん、カレンダーに、予定、書いたでしょ?だから」
 息もつぎつぎに、カツオはくしゃっと笑った。

 そしてカーゴパンツの大きなポケットに手を突っ込み、取り出したそれを私に握らせた。