出発の日、私は鞄一つで空港に来た。
「身軽なのね」店長に言われ、
「必要なものは向こうで買い足せばいいやと思って」と答えた。

 片付けで私は殆どの物を捨てた。元々持ち物は少なかったのだけど、そこからまたカツオがちらつく物を排除した結果、本当に身の回りの物しか残らなかった。
 全てをゴミ袋に捨てた時、カツオと過ごした時の深さと色濃さに少し苛立った。

「彼とはどうしたの?」
「え?」
 カツオの事を考えていた矢先に店長に聞かれ、ドキッとする。

「時々お店にも来てくれたじゃない」
「そうでしたね」

 カツオは時々店に来た。いつもふらっと、店にそぐわない恰好で。働いてる花沢さん見に来たーとニコニコ笑いながら。
 初めてお店に来た時、初対面の店長に挨拶もそこそこ、きれいっすねー、花沢さんに聞いてた通り、クイーンオブメガネ美人ですねー、と馴れ馴れしく話しかけた時は恥ずかしさのあまり倒れるかと思った。

「……カツオとは別れました」

 嫌な事を思い出したので変な汗をかきながら、なるべく感情を抑えて答えると、店長は思いのほかびっくりした様子で言った。綺麗な目がまん丸になっている。
「え?そうなの?お似合いだったのに」
「えー!」
 その言葉に私の方がびっくりして思わず大声を出してしまい、慌てる。まさか常に別れたいと思っていた相手とお似合いだと思われていたとは。

「……でも、別れました」
 私は大声を出してしまった気恥ずかしさの中、何とか言葉を捻り出した。

「ホントに?」
「ホントです」
「ウソでしょ?」

 店長が口元をきれいに歪ませて微笑む。意味が分からないままいたずらな色を浮かべた店長の視線を追うと、その視線の先には驚く事にカツオがいた。