そこから転勤の日までは引き継ぎや向こうに行ってからの事など片付けることが多すぎて、私は目が回るほどの忙しさの中で過ごした。朝早く出勤し、夜遅く帰る日が続いたので、あれからカツオの顔を見ることもなかった。彼の口からサヨナラも、これからどうするつもりかも聞いていないけど、顔を合わせるのは気まずかったし、このままうやむやになればいいと思っている私がいたので気にしないふりをして日々を淡々と忙しくこなしていった。
ゲームがたくさん入った箱がなくなった頃、部屋を引き渡すために片づけをしていると箪笥の奥から婚姻届が出てきた。
綺麗に封筒に入れられて引き出しにひっそりと沿うようにあったそれにはボールペンで丁寧にカツオの名前が書かれ、おそらく市役所の人に聞いたんであろう、カツオの字でどこに何を記入したらいいのかが細かく鉛筆で書き込みがされていた。
私はそれを丁寧に破り、封筒に入れて捨てた。やるせなかった。別れる事でカツオが本当に私と一緒になることを現実的に考えていたことを知った事が。
フワフワと生きていたように見えたカツオが私との将来を考えていたのに、私はいつだってカツオと居ることに疑問を持ち続けながらそれをぶつけることなくやり過ごしていた。話してもしょうがないと、ぶつけないこともカツオのせいにしながら。
そしてカツオが結婚を殆ど爆弾みたいに持ち出した時も、私は話し合いを避け、向き合うこともせずに彼の前から逃げた。最後まで私は向き合わなかったのだ。
あの時カツオが言いかけた言葉は何だったんだろうとふと思う。あの言葉を聞いていたら、私たちは今、どうなっていただろう。
赤い糸を断ち切ったのは私だったのだろうか。ふと、思った。