この緊張感から言ってまさかのお金貸して、だろうか。最近帽子屋の店長さんが結婚してワゴンではなくテナントで店を持つことになったのを見ているせいか、今までにも増してビッグになる発言が増えてきた。「俺がビッグになるための資金ください」とか言いだすつもりだろうか。しかもこの様子だと結構な額の予感がする。どうしよう。貸すべきか、いや、貸したらこれからもそんな事がたびたび起きそうな気がする。ここは断った方がいい。でも断るってどうやって?いや、普通に駄目って言えばいい。この事で喧嘩になったとしても私は海外に行くためにカツオと別れようとしているし、考えてみたら渡りに船かもしれない。

 瞬時に走り抜けた様々な問題を消化し、私は顔をあげる。カツオと目が合い、思いのほか真剣なまなざしに気圧されて私もスプーンを置いた。そしてひとつ小さく深呼吸をしてからまっすぐに彼の視線を捉え、口を開いた。

「なんでしょうか」

 カツオは目に見えて分かるくらい肩を上下させながら深呼吸し、そして、バン、と机に手を置きながら部屋中に響き渡るくらいの大きな声で言った。

「結婚しよう!」

 机を叩く音と予想だにしない台詞を殆ど衝撃として受けたその言葉は、私の脳味噌に浸透するのにかなりの時間を要したが、結論を口から出すまでには時間はそんなにかからなかった。

「え、無理」

 理解すると同時に殆ど反射的に答えた。