玄関のドアを開けると珍しくカツオが夕飯を作っていた。
「どうしたの?」
 私は身構えながらテーブルに並ぶ二人分のオムライスに目をやり、この前夕飯を作ってくれたのがいつだったか思い出す。あれは確か5ヶ月前だ。カレーを作ってくれて新作のゲームをねだられた。
「あ、お帰りー」
 カツオはいそいそとサラダを運んでくる。オムライスとサラダ。カレーのみだった前回からしたら飛躍的なバージョンアップだ。これは危険すぎる。何をねだられるか分かったもんじゃない。

 向かい合って座り、きちんと手を合わせてオムライスを口に運ぶ。

「美味しい」

 昔の洋食屋さんで食べたような素朴な味に私は思わず呟く。
「マジで?っしゃー!これ、店長の奥さんに教えてもらってさぁー」
「店長って、あの帽子屋の?」
 スプーンを止めることなく私は会話する。市販のケチャップが固く焼かれたたまごによく合う。
「そうそう、この前店長の家に行った時に奥さんが作ってくれてマジ美味くてさー、これ花沢さんも食べなきゃっしょ、って作り方聞いてさぁー。良かったー。花沢さんも美味しくてー」
 ニコニコしながらスプーンを動かしはじめたカツオを見て、私も食事のみに意識を向ける。

「……でさ、花沢さん」

 来た。

「ん?なに?」
 身構える。表面上はそんな素振りを見せないようにお皿から目線を上げずに、スプーンを動かしたまま。

「話が、あるんだけど、いい?」

 カツオがスプーンを置き、両手を膝の上に揃えた。二人の間に緊張感が漂う。この前のゲーム買っての時とは違う。短時間に色々な思考が頭を駆け巡る。