カツオの働いてる店は大型ショッピングモールの通路にあるワゴンだ。彼はそこで店長と二人で若者向けの帽子を売っている。

 量販店の安い浴衣をチェックしつつカツオの店に行くとちょうど接客中だった。邪魔にならないよう遠巻きに彼を見る。

「マジだって!カレシのプレゼントとかマジで絶対これだって!」

 化粧が濃くて露出の多い服を着た若い女の子にセンスの悪いデザインを自信たっぷりに売るカツオ。

「マジですかぁー?でもこれちょっとダサくないですかぁー?」
「んなことないって!これ一点モノだし、あれじゃね?ナンバーワンよりオンリーワンじゃね?」

 何であんなに大きいことが軽く言えるんだろう。
「俺はいつか何かで絶対ビッグになる」と「世に出たら凄いぜ?」はカツオの口癖だ。なんてフワフワした人生設計だろう。世に出たりビッグになったりする前にこの小さいワゴンの店長にでもなってみろ、とこの言葉を聞く度いつも思う。


 結局女の子達は帽子を買うことなく店を離れた。じゃあ、とカツオに手を振りこちらに歩いてきた女の子達は私の横を通り過ぎ、それを見送っていたカツオと目が合う。それまでもにこやかだったカツオの笑顔は明らかにプライベート向けの崩れたものになり、はなざわさぁーん、と大声で手を振られて、私は少し恥ずかしいながらも小さく手を振り返し、カツオの方へ足を進めた。カッ、と踵が地面を蹴り、無意識に朝の疑問を思い出す。
 ひょっとしたらこのフワフワしたところがその答えなのかも。

 脳裏で少しモヤモヤが薄れるのを感じた。