ザアザアとシャワーの音が聞こえる。彼の浴びるシャワーの音はどうしてこんなに呑気に聞こえるのだろう。

「人柄かしら」

 誰に伝えるでもなく独り呟き、バッグの中から取り出した裁縫セットから針を抜き取る。
 この前ボタンをつけるのに使った赤い糸がまだかかっている。血のようだ、と思った。

 右手に針を持ち、今から難しい手術に挑むように神妙に、ベッドサイドのコンドームを手にする。


 孵化するまでに殆ど食べられてしまうマンボウの卵と、ピンホールの開いたコンドームに射精された三億の精子。さあ、生存率が高いのはどちらでしょう?


 何かが頭に虚ろに響くのを聞きながら、私は針を静かに近づけた。



 彼がタオルで頭を拭きながらこちらに来る頃、私は全てを元通りにしてベッドサイドに座っていた。

「どうした、考え事か?」

 そう言ってビールの缶に手をかける彼に私は「愛してるわ」と言った。

 彼はそれを鼻で笑いながらビールを一口飲み、私を押し倒す。

 呟くようにもう一度愛してると呟いた私に、可愛いよ、と耳元で囁き、ベッドサイドのコンドームに手を伸ばした。



 壁にぶつかって死ねばいいのに、と思った。


《おわり》