小さな雰囲気のいいバーで
20代なかばのカップルが
カウンターに腰掛けていた。

店内は薄暗く、最近流行しだした女性歌手の曲が小さくかかっている。


ああなんだっけこの曲聞いたことがある。天使の歌声といわているんだとか、ラジオで言っていたな。

女はそんなことを頭の片隅で考えながら、空になったグラスをカウンターに置いた。

仕事に疲れ、未来を描くことのできなくなった男が、隣に座って、小さなため息をついた。


「二人とも、疲れているのね?」

柔らかいアルトボイスが降ってきて、二人は同時に顔をあげた。

美しい長身の女主人が柔らかい笑顔で二人を見ている。

「…仕事で疲れてるんだ。夢を追ってたころが嘘みたいに思える」
男が苦笑しながら、グラスをあけた。

「私も。毎日に張りがなくて、なんだかふわふわしてて。変な話、生きるってなんだろうとか考えちゃうのよね」

女も、さみしげに微笑んだ。