「ああ、ごめんなさい」

ドアから一歩下がって彼のために道をあける。

なのに高藤君はすぐには通らず、私をジッと見つめ『あれ?あんた中山の……』と呟く。

それに小さく頷くと、高藤君はクラスを一瞥してから『いねぇよ、アイツ』と教えてくれた。

ああ、私は知らないんだ。

中山君が普段どこにいるのか、そんな事さえ知らない。

私はもしかして彼の事、何も知らないのかもしれない。

がっかりと肩を落としてさっき来た階段を目指す。

廊下を抜けて昇り階段に差し掛かる時、下へ向かう中山君の後ろ姿をとらえる事が出来たのは、本当に偶然だった。運が良かっただけの事。

「な、な、中山君!中山君!」