鼻歌まじりに大きな背中がドアから消えていく。

「そう言えば、あれってサチと付き合ってんだよねぇ」

誰かがそう言ってるのがぼんやりする頭の中でリフレインする。

そう。『あれ』は私のなの。

そうなんだよ。あれは私の彼なの。

“人が一生懸命創ったモノをバカにする程、俺は腐っちゃいねぇよ”

って言ったのは――

間違った空気の中で一人正しい事を言ったのは──

中山君。中山君だけ。

私は?

私は――

違う、違うんだよ。私だって私だって、あんな事を望んでたんじゃない。

バカにしたかったんじゃない。

ただ……怖くて。