一瞬、中山君の低い声に教室中がシンとした。

でも次の瞬間にはいつもの彼に戻っていて。

ちょっとだけうつむいてしまった華の頭を撫で、その上に雑誌を乗せる。

「華ちん、やりすぎ注意だよ?ってかさ、キミみたいな人にはこれのが似合うだろ。これ差し上げますわよ?」

「うわッ!エロ本かよッ!いらないってば。バーカ中山。だから中山はランキングに入れないんだっつうの!」

頭の上の雑誌を取って中山君の背中を叩く華。

とたんに教室はいつも通りの雰囲気を取り戻す。

笑いに包まれた教室で私だけが薄い氷の上に立っている、そんな気がした。

私の前を通過するガタイのいい体。微かに香る太陽の匂い。

見つめた先で彼と視線が絡む事は一度もなかった。