結局、首根っこを掴まれて向かった美術室。

恐る恐るドアを開けるとそこに中山君の姿はもうなかった。

バシャバシャと筆を洗う私に、床や壁に反射した夕日のオレンジを浴びる棚の石膏像を眺めながら島先生が言う。

「白川、中山と付き合ってるんだって?」

「な、なんで知ってんですか?」

「中山が嬉しそうに自慢しに来たから」

「いつ?」

「屋上で一服……おっと」

「先生ってとことんダメ教師だよね?」

「ああ、うるせ。そのうちデカい賞取って、教師なんざ辞めてやるよ」

この美術教師は年中、事あるごとに『賞取って教師なんざ辞めてやる』と言ってはばからない。

でも私はそんな事言いながら三十歳になる今もこの学校で美術教師を続けてる先生が実はちょっと好きだったりもする。