「あ、白川さん。僕ちょっと前にナンパとかしたけど。それは一目惚れした白川さんを忘れたくて無垢な少年が傷心でやったことだから許してね?」

いつも通りの放課後、第二美術室に向かう途中の廊下で、全然無垢じゃないガタイのいい彼はそんな調子のいい事をほざく。

誰が無垢?誰が少年?

「あ……もしかして知らなかったとか?え?僕、もしかして自爆した?」

そう言う彼の右手には今日は“探偵ガリレオ”が握られている。それを見るとちょっと許してもいいかなって気分になってしまう。

「まぁね」

「げッ!あぁ、けどさぁ、あの時は本当にマジで落ち込んでた訳なんだよ。それは白川さんだって分かるでしょ?」

「……分かりませんけどね。私ナンパしなかったし」

タイミングよく窓からの秋の風が私の髪を躍らせた。

「あ、やだな、白川さん。すぐメドゥーサになるんだもん」

「なにそれ、いつもメドゥーサとか言って。ああ、私が怪物って事?」

「ちょっとだけノンノン。怪物だけど素敵って事」

人差し指を横に揺らす目の前の男にちょっと脱力する。