「あ、ご、ごめん」

床に降りても離れない私から先に身を引いたのは中山君だった。

「ううん。私こそ、ありがとう」

「ん、あ、煙草いい?」

中山君はポケットをゴソゴソいじると、ちょっと曲がった煙草を出して、それを口にくわえる。

その仕草にちょっと挫けそうになる。

本当に中山君の中の私は、もうただの同級生で、ちょっとした知り合い位なんだって言われてるようで。

だけど

ガタン、ガタンとさっきから風で揺れて壁にぶつかり音をたてるキャンバスに感謝しなきゃ。

あの音に私は最後の勇気を貰う。

私のひと夏はきっと無駄じゃなかった。

この夏に気づいた事がいっぱいある。

ちゃんと言わなきゃ、伝わらない──

深呼吸をひとつ。

そしてずっと伝えたかった言葉を紡いだ。