「おいで」

柵の向こうから聞えた言葉は魔法の呪文みたいだった。

良くみれば柵の下の方には唐草模様みたいにうねった鉄の装飾が申し訳程度に付いている。そこに右足を掛けて。

左足は扉の中頃の高さにある鍵の部分に。

あんまり恋する乙女としては見せたい姿ではないけれど、これも仕方のない事。

もう、あの日みたいに置いて行かれたくない。

けどやってみればなんとかなるもので、結構スムーズに私の上半身は柵の上に乗り出すことに成功した。

「おいで」

中山君の両手が私に向かって広がる。

小さく頷いて、私は右手を伸ばした。ずっと触れたいと願っていた彼を目指して。

そして金色に輝く髪を抱き締めるようにして、私は柵を乗り越えた。