中山君がゆっくりとエンジンをかける。

「……な、かやま君?」

進み出した彼にもう声は届かない。もう彼は私を見ない。

真っ暗な道に消えていく真っ赤なテールランプをずっと見ていた。


玄関の鍵を開け、自分の部屋までダッシュした。こんな顔、親にも見られたくない。

ベッドに飛び込むと肩にかけていたポーチが少し遅れて宙を舞い、私の頭に着地した。

「痛いじゃん……」

小さなポーチの中には渡せなかった中山君の好きなチュッパチャップスが入っている。

それから文庫本の“探偵ガリレオ”。バイトでドラマが見れなかったって前に言ってたのを思い出して。今の私達の関係からすると妥当な誕生日プレゼントだと判断した私はそれを自分で包装してポーチに忍ばせていた。

でも結局渡せなかった。誕生日でもなかった。

「痛いよぉ……」

涙が流れては落ち、落ちてはまた流れた。