私は一人取り残され、とりあえず丸テーブルの椅子に座ってみた。
こんな大人な雰囲気のお店を、何で先輩は知っているんだろう?
「どうぞ」
その声と共に、高級そうなカップに入ったコーヒーが運ばれてきた。
ここの雰囲気にぴったりだった。
「あっ、ありがとう」
そう、たどたどしく言ってしまった。
さっき受付にいた子だった。
どんな風に対応したらいいのか、わからなかった。
「コーヒー苦手?」
優しく話をするその子に少し安心した。
「うんうん、大丈夫」
「外寒かったでしょ?
今日午後から風強かったから」
そう、言い終えると同時に、その子はくしゃみをしていた。
何気なく笑った顔が、すっごい可愛いかった。
「温まりそう」
一口飲んだら、体の隅々まで温まるようだった。
ちょっとの苦味と酸味が入り混じっていて、ほろ苦い大人な味がした。
「ねぇ、ずっと前からこのお店あったの?」
近くに住んでいるものの、この場所にあるなんて、全然知らなかった。
「つい一年前くらいに、可奈(かな)さんがオープンさせたんだよ。
美容の専門学校時代の友人を雇ってね」
「そうなんだ!
あの、さっき走って来た人がその親友?」
「そうそう、あの奥でカットしている人が可奈さんで、あなたの彼氏が指名してさっき走ってきた、たくましい人が京ちゃん。
ちなみに、本名は京造(きょうぞう)っていうの」
手を添えながら、説明してくれていた。
「すっごい、男らしい名前だね」
よく見れば、京造って顔してるな、納得。
少し遠くで、京ちゃんの店内を揺るがすような大きな笑い声が聞こえて来る。