一体どんな夢を見ているんだ・・・・・・? その可愛らしい外見と声で人類の絶滅を願うって、危ない人なのだろうか。

「・・・・・・横隔膜の、痙攣とかで・・・・・・」

 しゃっくりじゃねーか! 嫌な死に方だなおい! しゃっくりが原因で人類が絶滅するなんて・・・・・・悲し過ぎる!
 なんだなんだ・・・・・・!? 印象的に割りと大人しそうな子だと思っていたが、とんでもない発想が心の深奥に埋まっていたもんだな・・・・・・。
 しかしこれは面白いな。寝言なんてそう聞けるものじゃないし、また何か面白い事を言うかもしれない。もう少しだけ様子を見てみよう。

 そうしてしばらく観察していると、それまで安らかな寝顔だった綺麗な横顔が、不意に曇った。そしてうなされ始め、

「・・・・・・うぅ・・・・・・しゃっくりが・・・・・・止まらないよう・・・・・・」

 夢の中で死にかけとる!
 そのまましゃっくりが止まらなければ、綾崎さんの夢の中の世界ではきっと死んでしまう。しゃっくりは人類滅亡への引き鉄なのだ。早急に起こしてあげた方が彼女の為になるはず。

「綾崎さん綾崎さん」

 呼びかけながら肩を軽く揺すってみても、全く起きる気配がしない。それどころか更に顔を歪め「じ・・・・・・地震」などと漏らしている。

「おーい! 綾崎さん! もう外暗いから起きないと!」

 今度はさっきよりも強めに揺する。というか揺さぶった。すると、ん~と唸りをあげながら、綾崎さんがゆっくりと目を開け――、

「・・・・・・だれ?」

 ・・・・・・・・・・・・まぁいい。クラスメイトになって日も浅いし。幾ら席が近いとはいえ、後ろの席とはいえ、人の印象に残る程の特徴的な顔立ちもしていないからな。悲鳴をあげられなかっただけまだマシというものだろう。

「あー。しゃっくり、止まってる」

 綾崎さんは体を起こすと、何故か自分の右腕をやたら擦りながらそう呟いた。寝惚けているな。
 そして横に立つ俺の顔に視線を巡らせてきた。自然、上目遣いになり、そのまま真っ直ぐに見つめてくる。
 こうして改めて見ても、やっぱりお姫様という単語が頭に浮かんで――危ない危ない。あんまり意識すると赤くなってしまう。