多恵は私の話を真剣に聞きつつ、でもおつまみを食べる手は休むことなく、お酒もたまに口に運んでいた。
頬杖をついて、嬉しそうに。
「松崎くん、いい人だね」
最初の感想はそれだった。
「彼が遥に好意を持ってくれてるのはきっと間違いないと思うし、付き合ったらうまくいくんじゃない?」
「でも私の気持ちが…まだ付き合おうっていう気になってないっていうか…」
私がごちゃごちゃ小声で抵抗すると、納得がいかないような顔で多恵は
「そんなこと言ってる間に、他の女の子に奪われちゃっても知らないからね」
と、やや意地悪そうに冗談めかして言ってきた。
「でも…その方が松崎くんも幸せになれると思うんだよね。私なんかに時間を割くよりもよっぽど有効っていうか」
私が苦笑いしながらそう言ったら、多恵は深い深いため息をついて、やがて諭すように私の目を見つめてきた。
「ねぇ、遥。もっと自分にワガママになってみて。相手の幸せも大事だけど、自分が幸せになること考えてみてよ。好きになってくれる人がいるって、すっごい奇跡的で、すっごい幸せなことだと思うんだけどなぁ…」