その日は同僚の仲良しの多恵が仕事で大きなミスをしてしまい、かなり落ち込んでいたので、私は彼女を励ます会を開こうと決意した。
「今夜、飲みに行こうよ」
と、私が誘ってみると、彼女は即座にうなずいてくれた。
当の多恵は泣き腫らした目をごまかすように、アイメイクをだいぶ濃いめにして更衣室を出てきた。
「…お待たせ」
更衣室の外で待っていた私は、あまりにも厚い彼女の化粧に一瞬息を飲んだけれど、言いたいことはグッと我慢し、多恵を引き連れて夜の街へ向かった。
金曜の夜ということもあって、だいぶ街は賑わっていた。
居酒屋に入った私たちは、とりあえずお酒とおつまみを頼む。
「遥が飲みに誘ってくれるなんて、すっごく久しぶりだよね」
多恵は重そうなまぶたを持ち上げるように私を見て、クスッと笑った。
「だって落ち込んでたから。たまには私だって友達想いなところ見せなくちゃ」
少し冗談めかして返したけれど、それは私の本心だった。
私が和仁と別れて、どうにも立ち上がれなくて体調まで崩しかけた時に、いつも気遣ってくれたのは多恵だったし、話すのが嫌なときは無理に聞いてきたりもしなかった。
仕事を続けられるのは、会社の人間関係が良好だからというのは大きな理由のひとつだ。