アパートに帰った私は、暗い部屋に明かりを灯して一息つくと、すぐに窓のそばまで歩み寄った。


カーテンを閉めながら自分の手が小刻みに震えていることに気がついた。


確かめるようにゆっくりと手のひらを返して、指を曲げたり、握ったり開いたりした。


この震えは何?
和仁と会った時のものとは少し違う。


まぶたをぎゅっと閉じる。


「迷惑じゃなければまた俺と会っていただけませんか」


松崎くんの声が耳の奥で聞こえる。


彼にそう言われて、さっき私はなんと言ったのだろう。
思い返してみる。


「迷惑だなんて、思ってない」


自分の口から発した言葉は、迷うことなく頭で考えるより先に出てきた言葉だった。


だから、たぶんその言葉通り、私は松崎くんと会ってご飯を食べたり映画を観に行ったりすることは、ごく自然になってきているのだと思う。