「西山さん」
不意に松崎くんに名前を呼ばれて、私はハッとして顔を上げた。
「なんでしょう?」
「俺の話、全然聞いてないじゃないですか」
「え?ごめん…」
苦笑いを返した私を、彼は半ば呆れたように笑みを浮かべた。
松崎くんは以前、私に敬語を使わないと話したはずなのに、彼はどうしてもやめてくれない。
この間そのことを指摘したら、
「もうクセになっちゃってますね」
と、ごまかされた。
「今日はどこに行きたいですか、って聞いたんです」
どうやら松崎くんは今日という日を、何をして過ごそうか考えていたらしい。
「そうだなぁ」
私はいつものようにそんな曖昧な言葉を口にする。
毎回毎回、私たちはこんな会話をして、結局なんとなく映画を観たり、お茶をしたり、ご飯を食べたり、同じような休日を過ごすのだ。