彼は逆に恐縮したように肩をすくませて、


「お礼なんていらないです。同じ時間に同じ車両に乗っていただけですし」


と言った。


まぁ、たしかにそれはそうなんだけど。
でも助けてくれたことに変わりはない。
わざわざお水まで買ってきてくれた。


「あなたみたいな人、なかなかいないと思うよ。普通は見て見ぬ振りをしてしまうでしょう」


「そうかなぁ…」


腑に落ちない顔をしている彼の横顔は、まだ幼さと隙が残っているような横顔だった。


だけど、やけに落ち着いていて、そこが彼の不思議なところだと思った。